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2005年3月30日 (水)

『若者はなぜ「決められない」か』 長山靖生

 この4月から、社会科教育専攻の新入生の基礎ゼミと学年担任をすることになった。 15人程度の学生と4年間おつきあいすることになる。これまで、ひとつの授業という枠を超えて学生とつきあったことがないので、とても楽しみな一方、下記にもあるように、自分自身は大学で教官とそうした関係を築いた経験がほとんどないので例によって一からの試行錯誤だ。

 基礎ゼミでは、「大学での勉強の仕方」を教えるということになっているのだが、教科書のひとつとして「現代大学生論」(溝上慎一)を選び、その論理構成と仮説検証の仕方を追いつつ、「現代の大学生」を相対化する視点を得てもらおうと思っている。その授業との関係もあって、現在、若者論関係文献を読み始めている。

 この出張中に持参したのが、長山靖生『若者はなぜ「決められない」か』。

 大変面白い本だった。あちこちすぐ引用したくなるような「目からウロコ」の新発見がいっぱいだ。その一方で、語り口は少々ブンガク的で、それぞれの章レベルでも論点が微妙に流れていき、本全体にいたっては、その内容を要約するのは非常に難しい。

 全体的な方向性としては、自己欺瞞に陥ってにっちもさっちもいかなくなろうとしているフリーターの現実認識をときほぐしてやることで、自分のおかれた状況と選択肢のもつ客観的な可能性を理解したうえで将来を自分で選択できるよう促している。筆致には、ほんとうの意味で相手の立場に立った深い真心が感じられる。 一箇所だけ引用を。

<第二章 フリーターは告発する> 冒頭

「世間の側には、フリーターは意欲に乏しいという固定観念が、依然として強く存在する。だが、実態は違う。少なくとも、フリーター自身の意識のなかでは、『仕事』はきわめて重要で特別な意味を帯びている。むしろその真面目さの故に、彼らは正社員にならずにフリーターをしている、とさえいえる。<中略>

彼らの話を聞いていて、唐突なようだが、私は北村透谷の『処女の純潔を論ず(1892)』を思い出した。<中略>

これは恋愛の純粋性に関する文章だが、文中の『恋愛』を『仕事』に置き換えてみると、そこにはたちまち『生きがいになる仕事』『本当の自分を表現する仕事』に向けるフリーターの熱い眼差しが見えてくる。現代の若者は仕事と恋愛したいと考えているのではないだろうか」 (pp.35-36)

  フリーターの新しい仕事観を、「見合いから恋愛へ」という変化にリンクさせる見方はとても新鮮だった。恋愛という制度が日本で立ち上がってきた過程と、仕事観の変化にもリンクが見られるのだろうか、とても興味深い。

  こういう引用の仕方をすると、いかにも社会学の本にありがちな、部外者の気楽な「客観的分析」の本と思われてしまうかもしれない。でも上述のようにこの本の持ち味はむしろ、相手の言葉に寄り添いながら、その言葉の根拠を突き崩していくことで、短期的には残酷のようだが、長い目で見ると本当に相手のためになる、そうした内容を目指している。そうした姿勢を、教育者としてぜひ学ばせてもらいたい。

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コメント

「現代の若者は仕事と恋愛したいと考えているのではないだろうか」
という言葉を読んで「あぁ、そうなんだなぁ」と納得しました。
私も今、所謂「リクルーター」ですが
「仕事を生きがいにしたい!情熱の持てる仕事につきたい!」
と考えてしまうあまり、周りの友達に様に何十社も採用試験をうけてみる、というような事ができずにいます。
恋愛でも、仕事でも、情熱を伴っていないといやだと感じるのは「現代の若者」としての傾向なのだろうか・・と
考えてしまいました。

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