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2006年10月 3日 (火)

速水融 『歴史人口学で見た日本』

例のトッド=速水会談を読んで、歴史人口学に興味が湧いたので、新書から読んでみることに。ほとんど知らない世界なのでいろいろ発見があった。

興味深い事実について

① 江戸時代、吉宗の治世のときから(1721-1846)全国規模で人口調査がすでに行われていたこと。ただしその調査は各藩でもともと行われた方法・基準を踏襲し、全国一律の方法ではなかったため、そこから厳密な全体の人口を知ることはできない。ただしそれぞれの藩での方法はずっと一貫しているため、地域ごとの変動などは知ることができる。
この江戸後期、全体としては日本の人口は停滞期にありほとんど増えていないのだが、地域ごとの人口変化を見ると減っていった地域と増えていった地域の差が生じている。主に減っているのは北関東、近畿圏など江戸、大阪、京都の三大都市圏周辺であり、増えているのは北陸、西中国地方、九州、四国である。この人口増加地域に薩長土肥がすっぽり含まれるのはおそらく偶然ではない。
この変化の原因と考えられるのは大都市が出稼ぎで周囲の人口をひきつけ、そこにおける高死亡率と低出産率とで人口を減らしていった、という効果である。これを速水は『都市アリ地獄説』と呼んでいる(p.65)。この高死亡率は、都市部(奈良市)および濃尾地方の宗門改帳の比較から確かめられている。
なお、こうした出稼ぎは小作人の家族で多く、彼らはその結果長い間に絶家する傾向が強い。一方、地主のこどもたちは分家を作り、それがだんだん地位を下げて自作農から小作人になっていく、というシステムがそこに存在していた。地方においては地主が人口を供給し、小作が人口を減らしていく。

この『都市アリ地獄説』は、同時期のヨーロッパにおいても確認されているらしい。
速水はこれ以上この論の意味についてこの本では詳しく述べていないが、これは無論、スペンサー=デュルケームの「人口密度上昇>分業の発達>経済の促進>さらなる人口密度上昇・・・」というような図式を覆すものである。都市は衛生状態の改善と工業化の二つの契機をともなってはじめて、そのポジティヴフィードバックをスタートさせたのだ。
衛生状態が改善されていないと、どんなに都市が工業化で人口を周囲から集めても、労働者はそこで一代で死に絶えてしまい、安い労働力は供給されない。これでは近代化のテイクオフは起こらない。

また、マルクスの言う労働者の搾取と自己疎外の理論は、むしろこの衛生革命以前の時期にこそあてはまる。というのも、彼らは奉公や小作を通じて、労働の本来の対価であるはずの自己再生産のための費用を受け取らず、搾取されることによって、絶家して消えていき、地主は彼らから搾取した「利潤」を自己の拡大再生産に投じることで分家を増やしていっているからだ。

「衛生革命」以降は、こうした搾取がむしろ生じないことで産業化は促進された。利潤は非工業化地域との価格差によって生じた。

② 江戸後期には人口は安定していたが、江戸前期は人口の爆発期であった。江戸初期の人口は、当時の肥後における人口調査結果(ここから石高と実際の人口の関係がわかる)と日本全体の石高を掛け合わせることでわかる(そこからの推測値は千二百万人)。江戸中期には三千万人近くになるので最初の百年で人口は2.5倍になったことがわかる。この人口変化の傾向は宗門改帳からわかる諏訪の結果と一致する。
 この人口爆発の原因を、速水は「勤勉革命」によるとする。速水は家畜数の減少(=資本低下)と、生活水準の向上(平均寿命の向上、旅行に出る者の増加)という事実から、実労働時間の増加によってこの生産力の向上が起こったと考える。この実労働時間の増加は、商品経済の発達により、「頑張れば報われる」というシステムが浸透したこと、(何らかの理由により)世帯規模が小さくなることによって、世帯内での協力も成り立ちやすくなったことによる、と速水は考える。ただし諏訪では世帯規模の低下は、人口増加が止まる1700年代以降も続いており、生産効率上昇との直接の関係があるかどうかは、疑わしいように(僕には)思える。

(補足)

ネットで調べてみると鬼頭 宏の『近代日本の社会変動―歴史人口学の視点から-』という本に、
20C初、都市死亡率が農村死亡率を下回る。
日本…明治20年代後半から都市発展本格化
   労働者定着→出生率上昇=都市人口の自然増加率も上昇
ということが書かれているらしい。
http://mwr.mediacom.keio.ac.jp/ito/katsudou4.html

  

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